かくいうもの

いつでもきょうがいちばんたのしいひ

今朝、東京に雪が降った。

夜のうちに降りだした雨が夜通し降っていたのか一度は止んだのかは知らないが、いつものようにギリギリに起きてシャワーを浴び髪もろくに乾かさないうちに家を出ると小雪が舞っていた。あ、と思って真っ白の空を見上げた瞬間、顔を掠めていった。そういえば雪が降るとか降らないとか昨日言ってたなあ、なんて思いつつもいつも気配を感じさせずに雪は降りだす。音もなく。

弘前劇場という劇団の「アザミ」という芝居がある。弘前劇場はその名の通り青森県弘前市に拠点を置いており、東京でも毎年公演を行っている。「アザミ」は2002年のザ・スズナリで初めて見た。その後、2009年に再演した際にも劇場に足を運んだ。2回目に見たときはちょうど今と同じような季節だったような気がする。なんでこんな話しを持ち出すかというと、「雪の降る音」の話が出てくるのだ。ラジオ「童話」ドラマの脚本家とアシスタント。アシスタントが「雪の降る音を聞いた」と言う。脚本家はそれを聞いてその「雪の降る音」を作るように注文する。雪の降る音は実際にはしない。雪と雪がぶつかる音だという。では彼女が聞いた雪の降る音とはどんな音なんだろうか。そのシーンを見て以来、雪が降る度に耳を澄ませて、雪の降る音をとらえようとしてみるものの、聞こえてくるのはいつもより余計に響く街の喧騒であり、車の走りゆく音ばかりだ。今日もまたそうだった。白色の空から現れた雪は音もなく降り、音もなく濡れた地面に落ちて消える。東京で降る雪は世界を白く塗り替えるほどのこともない。だからこそ切なく儚く。想い馳せてしまう。