かくいうもの

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冷たい熱帯魚

園子温監督「冷たい熱帯魚」@テアトル新宿


いきなりおっぱい。( ゚Д゚)ウヒョーなんて思っていつつ、でんでんの登場で一気に場を和ませておいて、そっからどん底まで落とす。凄まじいい映画だった。傑作怪作まさに「猛毒エンターテインメント」。


全てを周りに委ねて自分で立つことをしない社本の夫婦生活は当然のように冷め切っていて娘との関係もボロボロ。そんな背筋の曲がったどうしようもなくカッコ悪い男を吹越満が好演。気さくで明るいでんでん演じる村田と仲良くなっていくのだが、、気づいたときには絶望のど真ん中。もう逃れられない。これでもかっていうぐらいに極悪な世界に理不尽に放り込まれ、逃れようにも逃れられない葛藤の凄まじい苦痛。でんでんのイメージが所謂いい人であるが故に、その豹変ぶりが狂おしいほどの恐怖。でんでんはこの極悪人を存分に楽しむかのように演じていてまさにこれが怪演というやつだろう。猟奇的な場面でさえ笑いが出てしまうほどのこの映画は悲劇なはずなのに喜劇だ。狂ってしまった人生は加速度を最大にして奈落へと突き進むしか無い。「悪人なんだろう!お前は悪人なんだろうが!」村田の言葉が社本を抉っていき絶望が頂点に達したとき、負のスイッチが入ってしまった。何を守るために?自分の為に?家族を守るために?あんなに俯いていていた社本の伸びた背筋と刺すような鋭い視線に底なしの深淵が見える。その瞳の光は真っ赤に染まったシャツの鮮烈さと裏腹に氷のように冷え切った透明。人生は痛い。猛烈に痛い。

とにかくでんでんの演技の凄まじさに圧倒されるばかり。吹越満の好演、黒沢あすかの妖艶さが映画のクオリティを上げるのに貢献。神楽坂恵の眉間の皺(とおっぱい)に個人的に惹かれるものも多く、キャスト面でも素晴らしく充実した映画だった。サービスデーだったのもあり立ち見まででる盛況っぷり。そしてその観客全員が絶望し、人生の悲惨さに打ちひしがされたはずだ。
園子温に最高の賞賛を。


「俺の考える地球はよお、ただの岩だ!丸くてツルツルした星なんかこの世にねえんだよ!」



監督・脚本:園子温
出演:吹越満、でんでん、黒沢あすか神楽坂恵梶原ひかり、渡辺哲

愛犬家連続殺人 (角川文庫)

愛犬家連続殺人 (角川文庫)

元ネタらしい。ここから色々着想を得てこの傑作が生まれた。勇気を出して読んでみようか。



冷たい熱帯魚 | Movie Walker