かくいうもの

いつでもきょうがいちばんたのしいひ

冬が始まるよ。

わかりやすい感じで冬がやってきた。雨が降った途端にあ、もうそういう季節だったと気づくぐらいに空気に冬がしっかりと存在していて、じりじりと体の熱を奪っていく。そうやって一度冬の存在を意識してしまうともうダメだ。翌朝の目覚めは携帯のアラームによるものではなく、寒さに呼び起こされて。物語の世界のヒトコマのように毛布をこれでもかと体に巻きつけて隙間を塞ぐようにして朝の寒さと戦っていた。クリーニング屋から回収したままハンガーラックにかかっていたコートの薄いビニールカバーを引き剥がしてボサボサの頭で家を出た。

手が冷たい。これからもっと寒くなると指先が熱くなる痛いぐらいになってくる。それまではポケットに突っ込んでおく。そうなる頃には完全に冬になっているだろう。今日はまだ入り口に過ぎない。でも確実に今年の冬がやってきた。空気が澄んでいるからなのか、気分的なものなのか、ビルに反射する太陽の光が鋭く目に刺さる。いつの間にか紅葉も進んでいて、ビルの根元でオレンジ色の葉っぱを揺らしていた。前のめりに体を縮めて歩いてたが、暫くすると体は温まっていた。自分の体温を意識すると、必然的に恋しくなる、ということがある。冬は特にそうだ。一人で生きることに慣れすぎてしまっていると、そういう気持ちにさえ上手く踏ん切りをつけてしまえるようになってしまっている。否、そういう風にごまかしてしまう。実際はそういう気持ちに敏感すぎて途方も無い奈落に転がり落ちそうな、いわゆる寂しさってやつに支配されてしまいそうになって。実際大して気にせずに生きているような気もするけど。大げさなんだきっと。読んだ小説のセンテンスに過剰反応しているうちは平常。